町会館の扉が開き、マジックを堪能した子供たちが
我先に屋外に飛び出した。
みんな一様にして笑顔である。
仕方なく付き添いで来ていた大人たちも
満足げな表情である。
そんな中、納得がいかないといった表情の三人がいる。
「嘘つき。全〜然ッ、超能力使わなかったじゃないの」
「そんなァ...僕のせいじゃないですよォ」
「あ〜...せめてカメラが廻せてたらなぁ〜...」
理報たん、塗筆くん、瓶弧さんの三人である。
彼らは最後のヘナ斉木のテレキネシスをはっきりとは観ていなかったようである。
「でも大丈夫かしら。眼鏡の彼、最後にバタンキュ〜してたけど...」
「演出でしょ〜ど〜せェ〜」
まったく気に入らないといった表情で塗筆くんが
肩を落として歩いていた。
「でも面白かったなァ...来月もまた来ようかな。ちゃんと休暇とって」
一番後ろを歩く瓶弧さんがそう言って、ヨイショっとカメラを担いだ。
振り返らずに理報たんも「そうね」と言って同意した。
もう開演前ほどの熱射はなく、外気温も少し優しいものになっていた。
***
町会館の掲示板の前でポカーと口を開けて佇んでいる女性がいた。
「これは...すごい!」
栗枝たんデザインのイベントポスターを観てただただ感嘆の声をあげていたのは
音楽教師・御氏さんであった。
「...私にはキュビズムともシュールレアリズムとも判別つかない絵なんですが...」
自分にはまったく絵心や芸術性が足りていないことは自覚しているが
この傍らの女性が褒めたたえるほどこの絵が凄いのだろうか、と
矧枷博士はポスターと御氏さんを交互に見やっていた。
「...よし、決めた!」
勝手にポスターを剥がし始めた御氏さんを見て矧枷博士は少々驚いた。
「あの、何を?」
「これ、今度の絵画コンクールに出してみるワ!」
「いやいやそういうのは著作者の同意を得ないと...」
「いいのいいの。そんなの事後報告で。」
「だって知ってて応募して落選だったらショックじゃない?」
このひとを見ていると芸術家ってのは皆こういう人種なんだろうか、と
少々頭を痛める矧枷博士であった。
しかし、そういう彼女も嫌いではない。
むしろそんな彼女が生み出す音楽が彼は大好きなのだ。
彼女が認めた芸術性をもう一度、よく眺めている。
でもしかし、やっぱり矧枷博士には理解し難いものであった。
***
町会館の屋上のベンチでくつろぐみっつの影。
傍らには「do Do Pi Do」のお持ち帰り用のアイスの箱があった。
昨日同様に栗枝たん、斉木くん、明治くんはアイスをパクついていた。
もちろんヘーゼルナッツチョコレートアイスである。
「全〜然ッ、超能力使わなかったネ」
なんだか少し怒っているのか棘のあるトーンで栗枝たんがそう言った。
「え?」
アイスに齧りつきながら斉木くんと明治くんが栗枝たんのほうを向いた。
「使ったよ、超能力。なぁ?」
明治くんが斉木くんに同意を求めるように問いかける。
「うん。最後にちょっとトラブルがあって...」
「テレキネシスでなんとかしようと思ったけど、失敗しちゃったョ」
「何言ってんだ?」
求めた答えと違うものが返ってきたので明治くんは不満な表情を露にした。
「オレがトランプマジックを失敗した時に助けてくれたじゃん!」
「あれだろ、テレポーテーションでカードを自分のポケットに移したヤツ」
「あれは本当にビビったけど、結構感動ものだったよw」
「?」
何のことだか分からない、といった表情の斉木くん。
その向こうにはさらに何のことだかわからないといった表情の栗枝たん。
「...前もってボクのポッケにカード入れてたんじゃないの?」
「・・・」
「・・・」
誰の話も繋がらない。
「アハ、アハハハ...」
とにかく三人はただ笑って誤摩化すしかなかった。
「とにかく、じつは超能力が誰にも知られずに使われていた、と」
栗枝たんはアイスに小さく齧りつきながらそう結論づけた。
「...いや、多分ね、あのひとは気付いてたんだと思うよ。」
「誰?」
「矧枷博士」
矧枷博士の名前をふいに出した斉木くんのほうを向く両端のふたり。
「オレ、自分のマジックを成功させるのに必死だったから分からなかったけど」
「あのトランプを引いてもらった観客って...矧枷博士だよな?」
「いやいや、気付くだろ!あんな場違いな人がいたらwww」
「...必死だったんだよ、オレなりにサ」
急にトーンが変わった明治くんの言葉に斉木くんと栗枝たんは静かに聞き入った。
「初めてだったんだよ。人前で今日みたいな演目を演ったのは」
「本当はあぁいう魔法みたいなマジックに凄い憧れがあってサ...」
「今日に向けて必死に練習したんだよ」
必死に練習...いつもクールでヨユーを気取っている明治くんから
そんな言葉が出てきたのが斉木くんには驚きであった。
だが舞台での彼の懸命な姿、汗を流しながら演じる彼を
一番間近に見ていた斉木くんだからこそ信じられる言葉でもあった。
「もし、うまくいかなかったらマジック、辞めようと思ってたんだ」
「・・・」
「今日のショーは試金石、だったんだよ。将来に向けての」
「将来って...」
「中学生になったんだ。将来、何になるかくらいははやく決めなくちゃ、だろ?」
斉木くんも栗枝たんもこの少年が
じつは自分よりもずっと先のこと考えて生きていることにただ感心した。
ただ斉木くんにいたっては置いてけぼりをくったような寂しさも感じられた。
視線を落とす斉木くん。
そんな彼の寂しげな背中を明治くんはパンっと叩いた。
昨日までの乱暴なものではない、なにかしっかりとした何かがそこにはあった。
「そんなマジックショーだからサ!お前と演りたかったんだョ!」
自分でそう言っておきながら斉木くんが明治くんの方を向くと
照れくさそうにそっぽ向いてはにかんでいた。
そのふたりの姿を微笑ましく見守る栗枝たん。
(男の子の友情っていいなぁ、なんか、臭くってwww)
自分でそう考えながら思わずプププと笑いだしてしまった。
「何笑ってんスか?真面目な話してんのに!」
誇張したような怒った口調で明治くんはそう言ったが、満面の笑みがそこにはあった。
「そっか!じゃあ昨日の奢りの分は充分お返しできたってことだね!」
斉木くんが意地悪そうに昨日のトラップを蒸し返してきた。
「え?あ、あれネ?あー...そうねぇ...」
明治くんの様子がなんかおかしい。妙に取り乱している。
「あーもー充分すぎるくらい返してもらったサ!アハハハ!」
栗枝たんも彼の挙動に何かしら異変を感じていた。
***
じつは昨日、明治くんが家に帰ってから
空になってしまった財布の中身を補充しようとしたところ、
なんと支払ったはずのアイス代が財布の中になぜか戻っていたのだ。
しかもおかしなことにヘーゼルナッツチョコレートアイス一人分だけが...
たしかに二人分支払ったはずなのに...まぁ中身が増えたので深くは考えなかった。
とりあえずラッキーなことだったのだから。
***
今にして思えばトランプの件しかり、これももしかしたら斉木の超能力、
テレポーテーションやテレキネシスの力だったのかもしれない。
では誰の金が消えたのだろうか?斉木のお金?お店のお金?
斉木自身はなにひとつ気付いていないようだが...
「ま、いっかwww」
自分は何一つ損をしていないのでどうでもいいことのように明治くんには思えたw
「何がいいのさ?」
斉木くんの問いかけに言葉で答えることはなくただ悪戯めいた笑顔でそれに答えた。
「ちなみにこのアイスは奢りじゃないわョw」
栗枝たんも悪戯めいた笑顔でそう言った。
まぁそりゃそうだ。中学生のおこづかいでは300円や400円の出費は
大層大きいものである。だからこそ明治くんの奢りもそれなりのものであったのだ。
「へ〜いへいw」
なんとも残念そうに(昨日戻ってきた)代金を手渡す明治くん。
斉木くんも急いで自分の財布を取り出すが中身を見て、呆然とする。
「あれ?中身ないwww何でwww」
ようやく謎が判明してすっきりした気分の明治くんは
このヘナチョコな相棒・斉木くんの分の代金も栗枝たんに手渡した。
「これでまた貸しだなw次もまた頼むゼ、相棒!」
バンッ!とまた相棒の背中を強く叩く明治くん。
もちろんこの瞬間に、彼のポッケにはヘーゼルナッツチョコレート代が押し込まれていた。
***
あー!缶詰が終わる!えすぱあは...終わらんwww
2008年12月29日
002_Sound of Silence:X
posted by タナカリセ+タナカヤス at 08:56| 002_Sound of Silence
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